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2022/04/04

狙われる日本の先端技術、中国への“流出阻止”急務

 日本の先端技術が留学生や研究者、企業を通じて他国に流出し、軍事転用される懸念が強まっている。特に「軍民融合」を掲げる中国が豊富な資金を武器に、民間の頭脳や先端技術を手に入れる事態を阻止することは急務だ。政府は人工知能(AI)を利用したカメラや顔認証機器など先端技術の輸出規制に乗り出したが、経済安全保障の観点からより強固な対策を求める声も出ている。

 米マサチューセッツ州連邦地裁の陪審は、中国の人材獲得プログラム「千人計画」に参加しながら収入を米当局に報告しなかったとして、虚偽申告などの罪に問われたハーバード大教授のチャールズ・リーバー被告(62)に有罪評決を出した。被告はナノテクノロジーの世界的研究者として知られる人物だ。

 日本もひとごとではない。警視庁公安部は昨年末、中国人民解放軍関係者の指示で日本製セキュリティーソフトを不正購入しようとしたとして、詐欺未遂容疑で、既に出国している中国籍の元留学生、王建彬容疑者(36)の逮捕状を取った。公安部は中国軍がサイバー攻撃のためにソフトの欠陥を洗い出そうとしたとみている。

 公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望」では、半導体製造など高い技術を持った企業や大学に対し、「重要技術獲得に向けた働き掛けが懸念される」と警告している。

 生活に根付く素材や技術も用途次第で軍事転用される可能性もある。

 経済産業省の資料によると、ゴルフ用のシャフトや釣り竿などに用いられる炭素繊維は戦闘機の主翼素材として利用されるほか、自動車部品などの製造に使われる金属の切削加工機械も、核兵器に関わるウラン濃縮用遠心分離器の製造に役立つという。

 頭脳流出や技術流出の機会は、留学生・外国人研究者の受け入れや外国の大学との共同研究の実施、非公開の講演会や展示会などの場面が想定されている。

 ある国の国防関係の大学を卒業した留学生が、日本の民間用レーダー技術の権威ある研究者の元に留学し、帰国後、研究に従事した▽日本の研究者が帰国した元教え子に留学時代の研究の延長線上として実験データを送付した▽大学の輸出管理関係者を狙って標的型メールが送られた―といった例もあった。

 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「流出先は中国が圧倒的に多いと推測される。中国は巧妙で、露骨に違法な活動はせず、研究者を合法的にスカウトして人脈をつくる。共同研究や助成を名目にメールをやり取りして信用させた上で悪質な添付ファイルを仕込む方法もあり、ほかの研究仲間まで影響が及ぶリスクもある」と解説する。

 こうした事態に政府は、大学などへの研究費支出の際の情報開示の指針を改定し、外国の人材登用プログラムへの参加の有無など、開示すべき情報の範囲を拡大した。

 小林鷹之経済安保相は記者会見で「留学生や研究者などの受け入れ審査の強化も進めている」と語った。

 一定期間が経過すれば原則公開とする特許制度をめぐっても、政府は軍事転用できる先端技術の特許を非公開にする方向で検討している。

 人権上の問題も深刻だ。政府は米国をはじめとする有志国と連携し、高性能カメラや顔認証機器、衛星利用測位システム(GPS)の技術が監視や行動制限など深刻な人権侵害につながる恐れがあると判断した場合、輸出を許可制とする方針を固めた。中国は先端技術を活用して大規模な監視システムを張り巡らし、新疆ウイグル自治区などで市民の行動を制限しているとされる。

 ただ、法や制度の整備だけで流出を防ぐのは難しいとの指摘もある。前出の黒井氏は「中国は核心的情報ではなく、広く緩い情報まで吸い上げて、プロの情報機関が使える技術情報に組み立てる。軍事技術であるかどうかの判断や違法性を問うのが難しい場合がある」と話す。

 では、どんな対策があるのか。黒井氏は「日本の研究者の待遇を改善するのが一つの手段だ。また、中国の場合、『交流』や『共同研究』についても情報工作を仕切る当局が指令を出す痕跡もみられる。中国が触手を伸ばす技術を把握し、企業や研究機関に情報を開示して警告を発する仕組みも必要ではないか」と強調した。

引用 ITmediaビジネスONLINE:
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2201/08/news025.html

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