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2021/11/15

5G&AIで生産性を85%向上させた中国「三一重工」のスマート工場

2021年9月に、世界経済フォーラム(WEF, World Economic Forum)により、世界で新たに21の「ライトハウス(Lighthouse、灯台)工場」が追加されました。これにより累計で90工場が認定されたことになります。

今回はその中から中国大手の建機メーカー「三一重工(SANY Heavy Industry)」のライトハウス工場を紹介します。

今回新たに認定された21工場のうち、10工場は中国国内の工場です。これで中国国内にある認定工場は合計で31工場となり、全体の約3分の1を占めることになりました。

三一重工は、中国最大の建機メーカー「三一グループ(SANY Group)」の子会社として1994年に創設されました。主に油圧ショベル、コンクリート機械、掘削機、クレーンなどの建機を製造しています。中国国内では長沙、北京、上海、瀋陽、昆山、珠海、ウルムチなどにビジネスを展開しており、海外ではアメリカ、ドイツ、インド、ブラジルなどにも進出しています。

三一重工は今年5月に公開された世界的な経済誌『フォーブス(Forbes)』が発表した世界トップの公開企業2,000社を順位づけしたランキング「Global 2000」の2021年版では468位にランクインするなど、世界建機業界の主要プレイヤーとして注目を集めています。

2021年9月に三一重工の北京工場は、重工業として世界で初めてライトハウス工場に認定されました。この工場は杭打ち機を生産する工場であり、世界最大の杭打ち機の製造基地でもあります。

今回の認定は、WEFから「多品種・小ロットの建機市場における需要の高まりや複雑化の増加に直面している三一重工は、高度なヒューマン・マシン・コラボレーション、自動化、人工知能、モノのインターネットなどのテクノロジーを駆使することにより、労働生産性を85%向上し、生産サイクルを30日から7日に短縮した」と評価されています。

この工場は、北京郊外に位置しており、敷地面積は40,000平方メートル。フレキシブルマニュファクチャリング方式を採用し、三一重工の主力製品回転式掘削リグなどを生産しています。工場には、5G、クラウドコンピューティング、人工知能などの技術を幅広く利用しています。

三一重工は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として2018年に北京工場の建設を計画しました。また、北京工場を建設するために、三一グループの以下のリソースを生かしました。

三一知能研究院
三一グループの技術研究開発機構として主に工場で利用されるマシンビジョン、自動運転、産業用ロボットなどの研究開発に取り組んでいる。北京工場でも、これらの技術を利用している。
樹根互聯会社
三一重工が起業させたベンチャーであり、製造業のDXを実現するインダストリアル・インターネット・プラットフォーム「RootCloud」を構築・提供している。北京工場にも、このRootCloudが利用されている。
湖南三一工業職業技術学院
三一グループが運営している職業学校であり、製造業向けの職業技術教育に取り組んでいる。当校は、ライトハウス工場のためにロボットトレーニング基地を立ち上げ、工場作業員にロボット操作などを習得させ、スマートファクトリー環境で作業できるようにトレーニングを実施した。

ライトハウス工場の各種システム
北京工場で生産する杭打ち機械は非常に頑丈な装置であり、製品のサイズが大きく、重いという特徴があります。たとえば、170種類のドリルパイプの中には、長さ27メートル、重さ8トンという大型の製品もあります。

この工場は柔軟で小回りの効く生産センターである8ヵ所のフレキシブル・マニュファクチャリング・センター、16本のスマート生産ライン、そして375台のコネクティッドデバイスを持っています。2018年から本格的に生産の自動化、デジタル化、インテリジェンス化を進め、インダストリアル・インターネット、人工知能、モノのインターネットなどの技術を利用・融合し、大きな変貌を遂げました。

北京工場はシステムの観点から見ると、主に6つのシステムにより構成されています。

スマートブレイン
工場の頭脳に該当するシステムで、「ファクトリーコントロールセンター(FCC)」とも呼ばれます。FCCでは、すべての注文を生産ライン、作業ユニット、マシン、作業員に割り当てることで、注文からデリバリーまでのフルプロセスをデータ・ドリブンで実現し、製品生産のプロセスと作業詳細を把握することができます。
マシン・ビジョン・システム
工場の目に該当するシステムです。2D・3Dビジョンセンシング技術、AIアルゴリズム、高速5G専用ネットワークを生かして、大規模機器の自動適応溶接、高精度組立を実現します。「16トンパワーヘッドの無人化組み立て」、「厚さ40mm、幅60mmのドリルパイプ多層片道連続溶接」など、業界的には難しい業務も実施可能になりました。
無人搬送車(AGV)
工場内でモノを搬送する足に該当します。スマートロボティクスに欠かせないシステムでもあります。無線の5G専用ネットワーク環境に接続されることによって、従来ネットワークの不安定、低速、通信遅延などの事象が大幅に解消され、もともと実現できなかった超長尺の重量物の搬送作業で可能となりました。たとえば、2台のAGVは安定的に協働することにより、27メートルの超長尺の重量物の同時取り扱いと自動積み降ろしを実現しました。
ヒューマン・マシン・コラボレーション・オートメーション
工場の手に該当するシステムです。作業員とロボットは工場作業の役割分担を実施し、作業のコラボレーションを図っています。ロボットは5G+AR技術を利用し、材料の仕分けなど危険な作業を担当。作業員はロボットへの指示や、ロボットの操作などをそれぞれ担当します。それに、AIを駆使してベテラン作業員の技法や技能を学習させることで、生産ノウハウのパラメーター化及びその継承にも力を入れています。
スマート・マニュファクチャリング・システム
これは、スマートファクトリーを実現する上で欠かせないものであり、製造実行システム(MES)、マニュファクチャリング・オペレーション・システム(MOS)、IoT、倉庫管理システム(WMS)、リモート・コントロール・システム(RCS)などから構成されています。
AIoT・マネジメント・システム
IoTとAIを融合したシステムであり、工場の36,000ヵ所でデータ採集・分析することにより、生産プロセスやマシンのパラメーターの最適化を図ることができます。絶えずに収集されたデータを生かして、工場のエネルギー管理、生産性管理、コスト削減、故障予測などを行います。
三一グループの今後の展開
三一グループ全体としては、2025年までに、売り上げ「3,000億人民元(約5兆円)、工場作業員3,000人、エンジニア30,000人」と言った「三つの3」の目標を掲げており、バッテリー・電子制御・電気駆動装置の研究開発を進める電化、生産のフルプロセスの高度な管理を目指すデジタル化、人工知能・AR・IoT技術を駆使したスマート化といったDXの方向性を確立できています。

三一重工は三一グループの中核企業として最も先端的なテクノロジーに取り組んだ結果、北京工場がライトハウス工場に認定されました。これをきっかけに、以下のようなグループ全体のさらなるDX化が計画されています。

北京工場の知能化レベルを向上し、マニュファクチャリングのすべての作業をよりスムーズに、現場作業員への依存を最低限に減らす。
北京工場の生産意思決定の知能化レベルを向上し、オーダーからデリバリーまでのフルプロセスのデジタル化を実現し、データ・ドリブン式運営体制を確立する。
北京工場の実装モデルやノウハウを三一グループの国内外の工場に展開・拡大し、三一グループなりのライトハウス工場群を建設する。
このほか、三一重工は、ハイアール(Haier)、美的集団(Midea)、フォックスコン(Foxconn)などと同じく、自社のライトハウス工場のベストプラクティスをほかの会社にも提供するサービスを展開しています。

三一重工は、北京工場の建設をあくまでもDX推進の一環として捉えています。三一重工にとっては、グローバル的に自社の競争力を高めるには、より高度なDXレベルが求められており、まだ長い道のりがあると言えるでしょう。

引用 AI NOW:https://www.softbank.jp/biz/future_stride/entry/techblog/sbc/china/20211028/

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